交通ルール違反と賠償請求

今回は身近にありがちな交通ルール違反時に事故の被害者となってしまった場合、法的にどのような意味を持つかご説明したいと思います。

交通事故関係の問い合わせでしばしば耳にするのが、「事故当時シートベルトをしていなかったのですが請求は可能ですか?」といった類の質問です。これにお答えするにはまず交通事故の損害賠償の手続きを進めるにあたってポイントとなる以下の二つの点から考慮しなくてはいけません。

(1) 誰に事故責任があるか
(2) 請求額の算定
シートベルト不着用は特にこの二点目に大きな影響を及ぼします。

オーストラリアでは運転席、助手席に乗車している方はもちろん後部座席も含めた同乗者全員にシートベルト着用の義務があります。シートベルトをしないということは単に交通法違反というだけではなく、事故に遭い負傷した場合、自らシートベルトをしないという過失を犯したと解釈されます。法的にはこの自らの過失が損害発生に寄与したことを「寄与過失」(contributory negligence)といい、最終的な請求金の算定の際に非常に大きなマイナスの要因となります。例えば、完全停車中に追突されたケースなど、上記のポイント1である事故責任に関しては一切問題がなかったとしても、シートベルトをしていないというだけでその事故から生じた損害の請求金額の算定の際に、最低25%から最高で50%程減額されます。この背景にはたとえ事故を引き起こしたのは相手だとしても、もしシートベルトをしていたら防ぐことが出来たであろう損害についても請求を許すのは妥当ではないという過去の判例があります。

同様に、ヘルメットをせずに自転車やバイクに乗っていた場合、また夜間走行に必要な前方・後方ライトがきちんと取り付けられていない車両で事故に遭った場合なども寄与過失のケースとなり補償金を全額受け取ることは非常に難しくなります。

シートベルトやヘルメットは第一に身の安全を守るためのものであり、不着用や整備不良は交通法違反ですので警察に見つかれば罰金を課せされます。万が一、不着用時に事故に巻き込まれたときは損害賠償の請求金額の算定という点で大きな差異が生じることもあります。また、ライトの整備不良等はまわりに危険を及すだけでなく自分が加害者となってしまう可能性もあります。どれをとっても百害あって一利なしですのできちんと交通ルールを守り定期的に車両を点検することを心がけてください。