事故の損害賠償は過失に基づく制度となっているため、交通事故により補償を得るためには、相手ドライバーに法的に落ち度があったことを証明しなければいけません。民事のケースでは刑事事件とは違い、瞬間的な注意不足でも十分過失となり得ます。
過失があったとされるドライバー(加害者)には損害賠償金の減額、あるいは一切の補償金の免除を可能とする、様々な抗弁(弁明手段)があります。例えば、シードベルトを着用していなかった場合、補償は通常25-50%減額されます。
非常に稀ですが、加害者がやむを得ない事故を理由に事故責任を免れるケースがあります。やむを得ない事故とは、事故を起こしたドライバーが急に気を失う、突然、医学的危機的状況に陥ってしまった場合に考慮される弁明手段です。安全運転に相当な技量をもち、さらにきちんと注意を払った上で、上記の理由により事故が起きてしまったと判断される場合、加害者と加害者側の保険会社は一切の補償責任から免除されます。やむを得ない事故であると見なされるには、事故が故意ではなく、以前に気を失うことや健康状態が悪いこともなく、突然の失神等を予期できなかったことを加害者側が証明しなければいけません。
重要な要因として考慮すべき点:
1. 加害者が失神の原因となる病気や健康状態について認知していた・認知しているべきであったか(例:過去に心臓発作を起こしたことがある)
2. 加害者が病気や健康状態を認知してならば、再発のリスクを抑えるためにどのような処置をしていたか(例:血圧を下げるための薬を服用)
3. 加害者が運転を開始する前に発症、失神のリスクが高まる状況にあったか
やむを得ない事故と判断されたケース
後続車両のドライバーが急に心臓発作を起こし、運転不能な状態に陥り、前方車両に追突。加害者は過去に心臓のトラブルが一切なく、また心臓外科医も突然の発作により加害者が事故を回避するのに十分な時間はなかったと判断し、やむを得ない事故と認められる。
やむを得ない事故と判断されなかったケース
30代の女性が運転中に低血糖性の発作により、事故を起こしてしまう。加害者はやむを得ない事故だと主張したが、医療記録より幼年から低血糖であったことと事故が起きる数週間前から血糖値に問題があったことが発覚。発作が起きないようしかるべき処置をとらなかったとされ、加害者の過失が認められる。
以上を踏まえると、加害者が正当にやむを得ない事故を主張するには、適当な医療書類を提出できるかにかかっている、と言えるでしょう。