賠償請求に関する期限について

賠償請求に関する期限について

  1. 法的手続きを開始する際の「出訴期限」とは何か?

法的手続きを開始する際、オーストラリアでは一定期間内に関連する法的手続きを開始しなければいけません。この期間を「出訴期限」(Limitation Period)と言います。出訴期限は手続きの種類によって異なるので、以下では特に人身事故に関連する出訴期限について説明します。

  1. いつ出訴期限が始まるか?

 

出訴期限は法的手段を開始する権利が与えられる事由が発生した時点から開始します。つまり人身事故の場合、事故が起きた日から出訴期限が始まります。

 

  1. 各種出訴期限

 

1)      交通事故-Motor Accident Insurance Act 1994

 

交通事故で負傷した被害者が賠償請求を開始する場合、当該手続きを開始する旨を相手の保険会社に通知しなければいけません。交通事故保険法では通常、事故が起きた日から9ヶ月以内、もしくは弁護士と賠償請求に関する相談をした場合はその日から1ヶ月以内に、保険会社への通知を行うことが義務付けられています。この期限内に通知がされなかった場合は、遅延に相当する理由を述べ、その理由が妥当だと認められた場合、通知が受理されます。この判断はケース・バイ・ケースですので、必ずしも何らかの理由があれば期限外通知が受理されるわけではありません。

 

事故の相手が不明の場合はNominal Defendantという機関に対して請求を開始します。この際の通知は通常事故から3ヶ月以内、遅くとも事故から9ヶ月以内に完了しなければいけません。交通事故の出訴期限は最長で3年となっていますが、Nominal Defendant が相手の場合に限っては事故から9ヶ月以上経っても通知が成されないといかなる理由があろうと請求そのものが出来なくなってしまうので注意が必要です。

 

2)      労災 -Workers’ Compensation and Rehabilitation Act 2003

 

職場や勤務中、または通勤途中に人身事故に巻き込まれた方は労災の請求を開始することができます。労災の請求には(1)Common Law Claimと (2) Statutory Claim の2種類あり、前者は「労働に関係する負傷」が雇用主の契約違反、法的義務違反、もしくは過失が原因で引き起こされた場合に請求することができます。反対に、後者は怪我の原因に関係なく、職場での怪我であれば病院の治療費や働くことが出来なかった期間分の手当などを受けとることができます。

 

Common Law Claimの出訴期限は3年となっており、負傷した労働者・雇用者の方は、事故が起きた日から3年以内に雇用主が加入している労災保険会社(一般的にWorkCover  )に所定のフォームを用いて賠償請求の手続きを開始する旨を通知しなければいけません。

 

一方、Statutory Claimの場合は職場で負った怪我を病院で診て貰った後6ヶ月以内に申請しなければ申請が有効とならないことがあるので、怪我をした際はすぐに申請書を提出するべきだと言えるでしょう。また、事故からしばらく時間が経ってから申請を行った場合、申請日から遡って20営業日(4週間)より前の分の補償金が支払われないこともあるので、事故が起きた際は速やかに病院に行き、労災の手続きを開始することが賢明です。

 

3)      パブリック・ライアビリティー -Personal Injuries Proceedings Act 2002

 

公共の場で人身事故に遭った方はパブリック・ライアビリティー請求を開始できる可能性があることは前回でも触れました。パブリック・ライアビリティーの場合も同様に相手側に当該手続きを開始する旨を通知しなければいけません。この通知はパート1とパート2に分かれている所定用紙を用いて行われ、通常申立人は人身事故が起きた日から9ヶ月以内に、もしくは申し立てを行うべき相手が判別しており、弁護士に賠償請求の依頼をした場合は、その依頼日から1ヶ月以内に通知用紙のパート1を相手側に渡さなければいけません。パブリック・ライアビリティーの出訴期限は最長で3年となっておりますが、やはりこの場合も出来るだけ早く対応を取ることをお薦めします。

 

  1. 法的無能力と未成年

 

オーストラリアの民事手続法上、原則として18歳未満の未成年者は法的無能力とみなされ自ら法的手続きを開始することが出来ません。例えば、未成年者が交通事故に巻き込まれた場合は、法的能力の有る保護者がその子供に代わり手続きを開始します。それだけでなく18歳未満の未成年者が人身事故に遭った場合は様々な期限に少なからず影響を及ぼします。交通事故保険法では未成年者が満18歳になり、法的無能力が終わった時点から通知義務に関する期限が始まると規定されています。但し、これは未成年者には一切出訴期限が当てはまらないということではないので注意が必要です。

 

  1. 出訴期限が切れてしまった場合

 

出訴期限を制定する法律上、出訴期限内でなければ請求を起こす権利がないとされ、出訴期限が切れた場合はよほどの事情が無い限り原則的に請求手続きを開始することが出来ません。このような状況を避けるためにも、事故が起きた際は早急に専門家のアドバイスを受けるべきだと言えるでしょう。